梅毒はなぜ増えたのか?感染を広げないために知っておくべきこと
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監修者|橋田修医師
ひよりレディースクリニック福岡博多院長
産婦人科専門医

目次
梅毒が増えているって本当?
事実として、梅毒の感染者は、全国的に増加傾向にあります。
2023年の梅毒の年間報告件数は全国で15,055件に達し、過去最多を更新しました。(出典:厚生労働省_性感染症(STD)報告数の年次推移)
福岡県でも同様に、感染報告数は年々増加しており、性感染症の早期発見と予防がこれまで以上に重要な課題となっています。
かつては一部の人に限られた病気という印象があったかもしれませんが、現在の梅毒は年齢や性別を問わず、誰にとっても身近な感染症といえます。
「自分には関係ない」と思わずに、正しい知識と予防を心がけることが大切です。
梅毒が増えている理由|考えられる背景5つ
梅毒の感染者数が急増している背景には、いくつかの社会的・医療的な要因が複雑に重なっています。
ここでは、特に関係が深いと考えられる5つの要因について、医療の現場から見た視点でご紹介します。
1.気付かず感染を広げてしまうケースが多い
梅毒の初期症状は、痛みやかゆみがなく、自然に消えてしまうことも多いため、感染に気づかないまま過ごしてしまう方が少なくありません。
また、性器だけでなく、口唇・口腔内・肛門などにしこり(硬結)や潰瘍ができることもあり、見逃されやすいのが特徴です。
その結果、感染に気づかないまま性行為を行い、知らず知らずのうちにパートナーに感染を広げてしまう可能性があります。
2.マッチングアプリなど出会いの多様化
スマートフォンやSNSの普及により、マッチングアプリを通じた出会いが日常的なものになりました。
出会いの自由度が高まる一方で、不特定の相手との性行為による梅毒などの感染リスクも増加していると考えられます。
3.コロナ禍による検査控え=発見の遅れに
新型コロナウイルス感染症の流行により、多くの方が医療機関の受診を控えるようになりました。
その影響で、性感染症の検査を受けるタイミングが遅れ、梅毒の感染が見逃されたり、診断・治療の機会を逃してしまうケースが増えたと推察されます。
4.若年層への感染が増加している
近年では、10〜20代の若年層における感染報告も目立つようになっています。
性に関する知識不足や、コンドームの不適切な使用、性行動の低年齢化などが背景にあると考えられます。
特に女性の場合は、症状が外から見えにくいため、受診や診断が遅れやすい傾向があります。
5.HIVとの重複感染や予防薬(PrEP)使用の影響も
梅毒は、HIVとの重複感染が見られることも少なくありません。
近年では、HIVの感染予防薬(PrEP)の普及に伴い、性行動に変化が生じている可能性が指摘されています。
PrEPの使用によってHIV感染への不安が軽減された一方で、コンドームの使用頻度が下がり、結果として梅毒を含む他の性感染症の感染リスクが高まっていると考えられています。
梅毒の症状|ステージごとの特徴
梅毒の症状は、進行の段階(ステージ)によって異なります。
早期に治療を始めれば治癒しますが、放置すると全身に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
第1期(初期)梅毒

感染から約3週間後、まず感染部位(性器、口、肛門など)に「初期硬結(しょきこうけつ)」と呼ばれる痛みのないしこりが現れます。
やがてそのしこりは潰瘍化し、「硬性下疳(こうせいげかん)」と呼ばれる状態になります。
しこりや潰瘍は自然に消えることが多いため、気づかず放置されやすいことが特徴です。
また、この段階で鼠径部のリンパ節が腫れることもあります。
第2期梅毒

初期症状が消えてから数週間〜数か月後、全身にさまざまな症状が現れることがあります。
第2期梅毒の代表的な症状は、以下のようなものがあります。
バラ疹・梅毒性乾癬 | 手のひらや足の裏を含む全身に、かゆみのない赤い発疹やウロコ状の皮疹が出現 |
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脱毛 | 梅毒性脱毛と呼ばれる、部分的な抜け毛 |
粘膜症状 | 口の中やのど、性器に白い斑点や潰瘍ができる |
これらの症状は一時的におさまることもありますが、治療をしないと何度も繰り返す可能性があります。
第3期(晩期)梅毒
梅毒の感染から数年〜数十年が経過すると、心臓や血管、脳、脊髄、目、耳など、全身のさまざまな臓器に深刻な合併症を引き起こすことがあります。(晩期顕性梅毒と言います)
- 認知症や人格の変化(進行麻痺)
- 歩行障害や麻痺(脊髄の障害)
- 失明や視力障害(眼梅毒)
- 難聴、耳鳴り、めまい(耳梅毒)
- 心臓や大血管の障害
現在は抗菌薬による治療が確立されているため、ここまで進行するケースは稀ですが、早めの受診と治療が大切です。
妊娠中の感染で「先天梅毒」のリスクも
妊娠中に母体が梅毒に感染していると、赤ちゃんに感染がうつる可能性があり、これを「先天梅毒」と呼びます。
先天梅毒の赤ちゃんは、発育不全や骨の異常、聴覚・視覚障害、神経系の障害など、重篤な健康上の問題を持って生まれてくる可能性があり、場合によっては死産や新生児死亡のリスクも高まります。
そのため、妊婦健診では妊娠初期に必ず梅毒の検査が実施されます。万が一感染が見つかった場合でも、早期の治療で赤ちゃんへの感染を防ぐことが可能です。
梅毒の検査方法
梅毒の検査は、採血による血液検査で行われます。
採血で済むため、身体への負担が少なく、比較的気軽に受けられることが特徴です。
検査では、梅毒の原因菌である梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)に対する抗体の有無・性質・量を確認します。
症状がなくても検査をおすすめするケース
梅毒は、初期の段階では自覚症状が少なく、ご自身で気づきにくい感染症です。そのため、気づかないうちに進行してしまうケースも少なくありません。
次のような方は、症状がなくても一度検査を受けることをおすすめします。
パートナーが梅毒と診断された方
梅毒は、性行為によって直接感染する病気です。
パートナーが感染していた場合、ご自身にもすでに感染が広がっている可能性が高く、症状がなくても検査を受けることが強く推奨されます。
妊娠中の方
妊娠中に梅毒に感染していると、胎盤を通じて赤ちゃんに感染することがあり、先天梅毒という重い合併症を引き起こす可能性があります。
そのため、妊婦健診では妊娠初期に梅毒検査が必須とされています。
早期に発見して治療を行うことで、赤ちゃんへの感染を防ぐことができるため、検査を受けることは大切な命を守る一歩です。
不特定多数との性交渉があった方
梅毒は、コンドームの使用だけでは完全に防げないこともあります。
とくに、口や肛門、外陰部など、感染部位がコンドームで覆われない場所にある場合、接触によってうつる可能性があるためです。
複数のパートナーとの関係があった方や、相手の感染状況がわからない場合などは、症状がなくても感染している可能性があります。
ご自身の健康はもちろん、パートナーの安心にもつながるため、定期的に性感染症の検査を受けることをおすすめします。
他の性感染症と診断された方
性感染症は、一つだけでなく複数の感染症に同時にかかっているケースも多く見られます。
たとえば、クラミジアや淋病などと一緒に梅毒に感染していることもあり、症状が出ていないからといって安心はできません。
すでに他の性感染症が見つかっている場合は、梅毒を併発している可能性もあるため、あわせて検査を受けておくと安心です。
梅毒の治療方法|第一選択はペニシリン注射
梅毒の治療には、抗菌薬による薬物療法が基本となります。
なかでも第一選択薬とされているのが、ペニシリン系抗菌薬です。
進行度(ステージ)や症状に応じて、週1回の筋肉注射を所定の回数行うことで、体内の梅毒菌を確実に除去します。
一部の早期感染では、医師の判断により内服薬による治療が選択されることもあります。
なお、ペニシリンに対するアレルギーがある方には、ミノサイクリン塩酸塩やスピラマイシン酢酸エステルなど、他の抗菌薬を使用して治療が行われます。
治療方法は個々の体質や症状に応じて選択されますので、医師の指示に従って進めていきましょう。
梅毒の検査・治療は婦人科へ
梅毒の感染者数は全国的に増加傾向にあり、福岡県でも例外ではありません。
しかし、梅毒は早期に発見し、適切な治療を受けることで完治が可能な病気です。
何より大切なのは、「もしかして」と思ったときに、そのままにせず、勇気を出して一歩踏み出すことです。
ひよりレディースクリニック福岡博多では、梅毒をはじめとする各種性感染症の検査・治療に対応しています。
「感染していたらどうしよう」「誰にも相談できない」などの不安を抱えている方も、どうぞご安心ください。
当院では、プライバシーに配慮した環境と、一人ひとりに寄り添う丁寧な診療を大切にしています。
症状の有無にかかわらず、気になることがあればいつでもお気軽にご相談ください。