妊娠前に確認したい風しん抗体|検査とワクチン接種の重要性
更新日:

監修者|橋田修医師
ひよりレディースクリニック福岡博多院長
産婦人科専門医

妊娠中に風しんに感染すると、赤ちゃんに「先天性風しん症候群(CRS)」を引き起こすリスクがあります。
妊娠を考えている方やそのご家族は、妊娠前に風しん抗体の有無を確認し、必要に応じてワクチン接種を受けることが大切です。
本記事では、福岡市の風しん抗体検査・ワクチン接種の助成制度や、費用、接種のタイミング、よくある質問などを、産婦人科専門医がわかりやすく解説します。
目次
風しんとはどんな病気?妊娠中の感染が心配される理由
風しんは、「風しんウイルス」によって引き起こされる感染症で、発熱・発疹・リンパ節の腫れといった症状が現れます。
大人が感染しても比較的軽症で済むことが多く、気づかないまま治ってしまうケースもあります。
しかし、妊娠中の女性が風しんに感染すると、胎児に深刻な影響を与えることがあります。これを「CRS(先天性風しん症候群)」と呼びます。
CRS(先天性風しん症候群)とは

CRS(先天性風しん症候群)とは、妊娠中に母体が風しんウイルスに感染することで、胎児にさまざまな先天的な障がいが生じる疾患のことです。
CRSを発症した赤ちゃんには、以下のような先天的な障がいがみられることがあります。
- 眼の異常(白内障、緑内障など)
- 聴覚の障がい(難聴など)
- 心臓の疾患(先天性心疾患)
これらの障がいは、出生後の生活や成長に長く影響する可能性があるため、風しん感染は妊娠中にとくに注意が必要です。
妊娠初期の感染が特に注意される理由
風しんウイルスによる胎児への影響は、妊娠20週未満の初期に最も強く現れることがわかっています。
この時期は、赤ちゃんの臓器が形成される大切な時期(器官形成期)であり、この時期に風しんウイルスに感染すると、胎盤を通じて赤ちゃんに感染し、CRSを引き起こすリスクが非常に高くなります。
妊娠週数が進むにつれて、CRSのリスクは低くなりますが、妊娠20週頃までは安心とは言い切れません。そのため、「妊娠を希望している段階」で風しんの抗体があるかどうかを事前に確認しておくことが非常に重要です。
妊娠を希望する方は「風しん抗体検査」を受けましょう
風しんから赤ちゃんを守るために、まず最初にしていただきたいのが「風しん抗体検査」です。
風しん抗体検査は、ご自身に風しんへの免疫があるかどうかを調べる大切な検査です。
風しん抗体検査の方法と受けるタイミング
風しん抗体検査は、特別な準備は必要なく、採血のみで終了します。
検査の時期としては、妊娠を希望するすべての女性に、妊娠前に受けていただくことを強くお勧めします。
なお、妊娠している可能性がある場合は、必ず検査前に医師へご相談ください。
抗体価の基準と判定の見方(HI法/EIA法)
風しん抗体検査の結果は、「抗体価」という数値で示されます。この抗体価によって、風しんに対する免疫があるかどうかが判定されます。
主な検査方法として、「HI法(赤血球凝集抑制反応)」と「EIA法(酵素免疫測定法)」の2種類があります。
HI法の場合
- 32倍以上:免疫あり(追加接種は不要)
- 16倍:免疫が不十分な可能性(追加接種を検討)
- 8倍以下:免疫がない、または非常に低い(ワクチン接種が強く推奨される)
EIA法の場合
- EIA価 8.0以上(または45IU/mL以上):免疫あり
- EIA価 8.0未満(または45IU/mL未満):免疫がない、または不十分
※どちらの方法で検査されたかにより判定基準が異なります。ご不明な点があれば、医師にご確認ください。
過去に接種歴があっても検査は必要?
「子どもの頃にワクチンを受けたはずだから大丈夫」と思われる方もいらっしゃいますが、時間の経過とともに抗体価が低下しているケースや、接種回数が不足していたケースもあります。
実際に、大人になってから接種を受けた方でも、数年後の検査で抗体価が不十分と判定されることがあります。
過去の接種歴に関係なく、ご自身の現在の免疫状態を正確に知るために、妊娠を希望されるすべての方に抗体検査をおすすめしています。
抗体が不足している場合はワクチン接種を
ひよりレディースクリニック福岡博多では、風しん抗体検査の結果、抗体価が低い方や免疫がないと判定された方に対して、妊娠前のワクチン接種を推奨しています。
ワクチンを接種することで、風しんウイルスに対する免疫がつき、感染を予防することができます。
これはご自身の健康を守るだけでなく、将来生まれてくる赤ちゃんにとっても、大切な備えとなります。
風しんワクチンとMRワクチンの違い
風しんワクチンには、風しん単独ワクチンと、麻疹(はしか)と風しんを両方予防できるMR(麻疹風しん混合)ワクチンがあります。
通常、成人への接種ではMRワクチンが選択されることが多いですが、供給状況や既往歴(麻しん罹患歴・予防接種歴)によって、どちらが適しているかは異なります。
なお、ひよりレディースクリニック福岡博多では、現在MRワクチンは全国的な供給不足のため、予約を一時停止しております。
風しん単独ワクチンは在庫がございますので、お気軽にご相談ください。
接種時期と避妊の必要性
風しんワクチンは「生ワクチン」に分類され、弱毒化されたウイルスが体内に入ることで免疫を獲得します。
そのため、妊娠中に接種することはできません。
また、万が一接種直後に妊娠が判明した場合でも、赤ちゃんへの明確な影響は報告されていませんが、念のため接種後2か月間は避妊が必要とされています。
そのため、妊娠を計画している方は、妊娠前に十分な期間を設けてワクチン接種を済ませておくことが大切です。
副反応は?安心して受けていただくために
風しんワクチン接種後の副反応は、ほとんどの場合、軽度で一過性のものです。
主な副反応としては、接種部位の痛みや腫れ、発熱、発疹などが挙げられますが、これらは通常、数日で治まります。
重篤な副反応は極めてまれですが、気になる症状がある場合には、すぐに医療機関へご相談ください。
ご家族やパートナーも一緒に風しん対策
風しん対策というと、妊娠を希望する女性だけの問題と思われがちですが、実際にはパートナーやご家族など、身近な方々の協力がとても重要です。
風しんは、感染しても軽症で済むことが多く、本人が気づかないうちに他人へうつしてしまうケースも少なくありません。
とくに免疫のない妊婦さんにとって、身近な人が風しんに感染することは大きなリスクとなります。
パートナーや家族が“感染源”になることも
風しんウイルスは、咳やくしゃみによる飛沫感染で広がります。
妊婦さんと同居しているパートナーや家族が感染してしまうと、そのまま妊婦さんにうつってしまう可能性があります。
そのため、妊娠を希望する女性のパートナーや同居のご家族も、ご自身の風しん抗体を確認し、必要であればワクチン接種を検討することをお勧めします。
社会全体で妊婦さんを守る「集団免疫」という考え方
風しんウイルスの感染を防ぐには、社会全体で免疫を持つ人を増やすことがとても重要です。
多くの人が風しんに対する免疫を持っていれば、ウイルスが人から人へ広がりにくくなり、感染が拡大しにくい社会環境がつくられます。
これを「集団免疫(herd immunity)」といいます。この集団免疫が機能することで、
- ワクチン接種ができない妊婦さん
- 免疫が不十分な方
- 持病などで接種が難しい方
といった「守られる立場にある人」も、間接的に感染から守られることになります。
妊娠の予定がない方にとっても、風しん対策に協力することは、「社会全体で赤ちゃんを守る」という大切な役割につながります。
当院での風しん抗体検査・ワクチン接種について
ひよりレディースクリニック福岡博多では、妊娠を希望される方が安心して風しん対策を進められるよう、風しん抗体検査およびワクチン接種に対応しております。
妊娠前に必要な検査やワクチンの内容については、医師が丁寧にご説明し、ご不安な点やご質問にも一つずつお答えいたします。
ワクチン接種の可否やタイミングに関するご相談はもちろん、パートナーや同居のご家族とご一緒のご相談も、どうぞお気軽にお申し付けください。
検査から接種までの流れ
Step1
ご予約
まずはLINE・WEB予約またはお電話にてご予約ください。「風しんの抗体検査・ワクチン接種希望」とお伝えいただくとスムーズです。
Step2
診察
ご来院いただきましたら、医師が問診を行い、検査やワクチン接種について詳しくご説明します。ご不明な点や不安なことがあれば、何でもお気軽にご質問ください。
Step3
検査・接種
医師の説明にご納得いただけましたら、採血による抗体検査、またはワクチン接種を行います。
福岡市の公費助成について
ひよりレディースクリニック福岡博多は、福岡市の風しん対策事業の実施医療機関です。
条件を満たす方は、抗体検査・ワクチン接種の費用が助成される制度をご利用いただけます。
対象者
- 妊娠を希望する女性
- 妊娠を希望する女性のパートナー
- 妊娠を希望する女性の同居者
- 妊婦健診で風しん抗体価が低いと判明した妊婦のパートナー
※詳細は福岡市のホームページをご確認ください。
ご利用方法(助成を受けるには「受診券」が必要です)
助成制度の利用には、福岡市が発行する受診券が必要です。
受診券は、お住まいの区の保健福祉センターなどで申請・交付を受けることができます。
詳しい申請方法や助成対象期間については、福岡市の健康福祉局のウェブサイトで最新の情報をご確認いただくか、当院の受付までお問い合わせください。
風しん抗体検査・ワクチンの料金表
風しん抗体検査 (福岡市助成) | 無料 |
---|---|
風しん抗体検査 (自費) | 2,900円 |
風しん単独ワクチン (福岡市助成) | 2,000円 |
風しん単独ワクチン (自費) | 6,600円 |
※初診料2,200円、再診料1,100円を別途頂戴します。 ※助成に関する詳細は福岡市のホームページをご確認ください。 |
福岡で風しん抗体検査とワクチン接種ができる婦人科です
ひよりレディースクリニック福岡博多では、妊娠を希望される方が安心して風しん対策に取り組めるよう、風しん抗体検査およびワクチン接種を行っております。
風しんへの免疫を確認し、必要に応じてワクチンを接種することは、将来の妊娠に備えるうえで非常に重要です。
ご自身の健康を守るだけでなく、生まれてくる赤ちゃんを先天性風しん症候群から守るための、確かな一歩となります。
妊娠を考えはじめた方はもちろん、パートナーと一緒に準備を進めたい方や、接種歴が不明でお悩みの方も、どうぞご相談ください。
風しんに関するよくあるご質問
妊娠中に風しんの抗体がないとわかりました。どうすればいいですか?
妊娠中に風しんへの免疫(抗体)がないことが判明した場合、妊娠中は風しんワクチンを接種することができません。そのため、風しんの流行時期には特に人混みを避ける、外出時にはマスクを着用するなど、感染リスクをできる限り減らす対策が重要になります。また、パートナーや同居されているご家族がワクチンを接種しておくことで、妊婦さんをウイルスから守る「周囲からの対策」も非常に有効です。ご自身だけで抱え込まず、周囲の方と協力しながら、できる限りの感染予防を行っていきましょう。
妊娠に気づかず風しんワクチンを接種してしまいました。
風しんワクチンは「生ワクチン」に分類されるため、妊娠中の接種は原則として推奨されていません。しかし、妊娠に気づかず接種してしまった場合でも、これまでの報告では胎児に奇形などの重大な影響が現れるリスクが明らかに増加するとはされていません。そのため、過度にご不安にならず、まずは接種を受けた医療機関やかかりつけの産婦人科へご相談ください。
抗体が中途半端にある場合も接種すべきですか?
抗体価が完全に不足しているわけではないものの、「免疫がやや不十分」と判断される数値(例:HI法で16倍、EIA法で基準値ぎりぎり)だった場合も、 ワクチン接種を検討することをおすすめします。特に妊娠を希望されている方にとっては、確実に免疫をつけておくことで、妊娠中の感染リスクを下げ、より安心して妊娠に臨むことができます。抗体価の解釈や接種の必要性については、検査方法やご自身の状況によって異なりますので、最終的には医師と相談しながら判断しましょう。
ワクチン接種後に体調不良になったらどうすればいいですか?
風しんワクチン接種後に、発熱・発疹・だるさ・関節の違和感などの副反応が出ることがありますが、ほとんどの場合は軽度で一時的なもので、数日以内に自然におさまります。ただし、症状が強い場合や長引く場合は、念のため早めに接種を受けた医療機関へご連絡ください。必要に応じて、医師が診察のうえ、適切な処置や検査を行います。また、市販薬を自己判断で服用する前に、一度ご相談いただくことをおすすめします。
男性も風しんの予防接種は必要ですか?
はい、男性にとっても風しんの予防接種は非常に大切です。特に、妊娠を希望されている女性のパートナーや同居のご家族である場合は、ご自身が風しんに感染すると、免疫のない妊婦さんへウイルスをうつしてしまう可能性があります。妊娠中の風しん感染は、赤ちゃんに先天性風しん症候群(CRS)という重い障がいを引き起こすリスクがあります。このようなリスクを防ぐためには、妊婦さんご本人だけでなく、周囲の方々がしっかりと免疫を持っていることがとても大切です。ご自身に免疫があるかどうかは、簡単な採血検査で確認することができます。抗体が不足している場合は、ワクチン接種を受けることで、妊婦さんと赤ちゃんを守ることにつながります。また、福岡市では特定の年齢層の男性に対して、公費による抗体検査・ワクチン接種の助成制度も用意されています。対象の方は、ぜひ制度を活用して風しん対策を進めていただければと思います。
昔風しんにかかったことがあれば検査は不要ですか?
子どもの頃に「風しんにかかった」と言われた記憶がある場合でも、念のため抗体検査を受けておくことをおすすめします。風しんは、他の発疹性のウイルス感染症(例:突発性発疹、りんご病、麻しんなど)と症状が似ているため、過去の診断が正確だったかを、現在の時点で確認することが難しい場合もあります。実際に風しんにかかっていた可能性が高くても、抗体の有無や量は、時間の経過とともに変化することがあります。そのため、確実に免疫があるかどうかを確認するには、抗体検査が最も確実で安心な方法です。
風しんワクチンを打てば、100%風しんにかからないですか?
風しんワクチンは、非常に高い確率で風しんに対する免疫を獲得できる予防接種ですが、どのワクチンにおいても「100%感染を防げる」とは言いきれないのが現実です。ごく稀に、接種後に風しんにかかってしまう「ブレイクスルー感染」が起こることもあります。ただし、ワクチンを接種していれば、感染した場合でも軽症で済む可能性が高く、重症化を防ぐ効果が期待できます。
ワクチン接種後、いつから妊娠を考えても大丈夫ですか?
風しんワクチン(MRワクチン)は「生ワクチン」に分類されるため、接種後は約2か月間、妊娠を避ける必要があります。これは、体内に取り込まれた弱毒化ウイルスが完全に排出されるまでの安全期間として設けられているものです。そのため、妊娠を計画している場合は、この避妊期間を考慮して、余裕を持ってワクチン接種を済ませておくことが大切です。接種から2か月が経過すれば、安心して妊娠を検討していただけます。ご不安なことがあれば、接種前のタイミングでもぜひご相談ください。